ラバーダムはメリットが多いのに日本の歯医者で使用率が低いのはなぜか
こんにちは、三好歯科 自由が丘 院長の三好健太郎です。
リニューアルオープン後、早2週間が経過しました。
ホームページもより見やすくなるよう、近日中に大きく変更を加える予定です。
さて今回は、以前にもお伝えしたラバーダム防湿法の説明に加えて、患者様にとってのメリット・デメリット、歯科医院においてラバーダム使用率が伸びない理由について解説していきます。
ラバーダムとはゴム製のシートで、主に根管治療の際に患部以外を覆うものです。細菌を含んだ唾液が患部に流入して細菌感染することを防ぐ目的で使います。
メリットが多いラバーダム、歯医者の使用率はわずか5.4%
最初に結論を言うと、『患者様の治療において、ラバーダムの使用は必ずプラスになる』。
これは、ほぼ揺るがないと思います。
基本的にメリットがほとんどで、デメリットはないと言い切っても問題ないでしょう。強いて言えば、ラテックスアレルギー(ゴムに対するアレルギー)の方は適用できない、などのマイナス点がある程度です。
ラバーダムを使用する機会は根管治療に限らず、虫歯治療、コンポジットレジン(詰め物)修復などさまざまなタイミングでありますが、一番多いのは、やはり「根管治療におけるラバーダム防湿」だと思います。
しかし、以前(こちら)もお話した通り、日本の歯科医院におけるラバーダムの使用率はわずか5.4%(2011年データ)で、ラバーダム無しで根管治療を行う歯医者が大多数となっています。その結果、根管治療をした歯のおよそ2本に1本が、ラバーダム防湿をしなかったことが原因で、後から(すぐに、または数年後)再治療が必要になっているのが現状です。
裏を返すと、2本に1本は問題なく治っているため、ラバーダムの必要性を感じていない歯科医院が多いとも言えます。そして、日本においてラバーダムの使用率が低い最大の理由として、歯科医院として採算が合わないことが挙げられます。自由診療ならともかく、現在の保険診療報酬では、保険診療においてラバーダムを使用することは経営的に難しいです。
道具も手間もこんなにかかる、ラバーダム防湿の手順とは
採算が取れない理由をお伝えする前に、ラバーダム防湿とは一体どんなことをするのか画像とともにご説明します。当院のマイクロスコープで撮影した動画を切り出してあるので、ピントがずれている箇所もありますがご了承ください。
1,麻酔
麻酔を打って、患者様が痛みを感じないようにします。
2,ラバーダムを装着
治療対象の歯に、クランプという器具を使ってラバーダムを引っ掛けていきます。
3,歯の周りを封鎖
クランプに引っ掛けてあるラバーダムをズラして、歯の周りを封鎖していきます。
クランプの反対側も同様に外していきます。
これでクランプの下にラバーダムが入り込みました。歯と歯の間は必要に応じてフロス等を用い、しっかりと封鎖していきます。
4,歯とラバーダムの隙間を完全に埋める
ラバーダムは基本的に、口腔内の唾液が治療する歯に入らないようにするためのものです。しかし唾液は水分なので、微細な隙間があれば入ってきてしまいます。そのため、歯とラバーダムの隙間を特殊なレジンで封鎖します。
その前に現時点で残っている余分な唾液を飛ばします。
その後レジンにて隙間を埋めます。
歯の全周をしっかりと埋めていきます。
レジンを埋めたら特殊な光で硬化させます。
埋め方に関しては方法が色々とありますので、これは一つの例だと思ってください。
5,消毒
きちんと封鎖できていることを確認したら、強めの消毒液で歯やクランプを含むラバーダム全体の消毒を行います。
当院では2種類の消毒液を使用しています。1つ目は透明な消毒液(上記写真)、2つ目は赤茶色の消毒液です(下記写真)。
全体を消毒したら、余分な消毒液を吸引します。
これでラバーダム防湿は完了です。
ここからようやく仮蓋を外して根管治療を行っていきます。
ラバーダム防湿の手順の動画もありますので、ご参照ください。
ラバーダム防湿は採算が取れない?歯医者での使用率が低い訳
いかがでしょうか?
ラバーダムを使用すると、根管治療に入るまでにこれだけ手間と時間と材料が必要になります。根管治療自体もかなりの数の道具を使っており、毎回手術をしているかのように大掛かりです。
根管治療を自由診療で行う場合はラバーダム防湿法も自由診療の扱いになり、保険診療で治療をする場合は保険診療の扱いになります。
国民皆保険制度による保険診療は、日本全国どこの病院でも同じ安い料金で医療を受けられる制度ですが、これは医院経営の観点から見ると非常に苦しいです。
例えるなら「都内一等地の一流レストランでも、田舎のファストフード店でも独自のメニュー(自費診療)は自由に提供して良いが、安価なメニュー(保険診療)は全国一律料金で同じものを提供しなければいけない」ということです。
場所代(家賃)や人件費などの経費はお店によって全く違うのに、同じ値段で同じ商品やサービスを提供するというのは、ビジネスとしてはかなり難しいです。特に保険診療の場合、歯科医院への診療報酬が基本的に安価であることが、医院経営の難しさの要因となっています。
安価な商品やサービスを提供するお店でまず考える事は、2つです。
・お客様の回転率を上げる(滞在時間を短くする)
・徹底した経費削減をする(様々なコストカットをする)
飲食店なら他にも単価をあげる、店舗数を増やすなど対策が打てるかもしれませんが、これらは歯医者には当てはめられません。ラバーダムは、こういった事情の影響をもろに受けて、実施する歯医者が少ないのです。冒頭でお伝えしたように、歯医者のラバーダム使用率は2011年時点で5.4%ですが、診療報酬が改善されていないこの状況では、2020年現在もほとんど変わらないのではと思います。
歯科医院は慈善事業ではありません。働いている歯科医師やスタッフにも家族や生活がありますから、収益がなければいけません。採算が取れない治療が積み重なれば医院の経営が傾き、通っていただいている患者様にもスタッフにもご迷惑をおかけすることになります。
三好歯科 自由が丘では保険診療でもラバーダム防湿を行います
三好歯科 自由が丘では、保険診療の根管治療でも、先ほどご紹介した手順でラバーダム防湿を行っています。当院では、基本的には自費診療による根管治療を推奨しており、保険診療による根管治療の患者様は極めて少ないのです。
当院では、歯の根の状態によって「当院では保険診療の根管治療はできません」と説明させていただくこともあります。その理由は採算が取れないからではなく、自由診療と違って治療法が限られるため、予後の保障が難しいからです。
ラバーダムは確かに患者様にとってプラスになるアイテムですが、ラバーダムを使用すればそれでOKという簡単な話ではありません。ラバーダムは、言わば治療環境の準備に過ぎません。根管治療を専門とする歯科医師が、どのような器具を使って、適切な診断・治療をするかが大切なのです。それが予後に極めて大きく影響します。
三好歯科 自由が丘では、根管治療の専門である副院長が自費診療による根管治療を全て担当しております。保険診療の根管治療をご希望の患者様には、リスクを説明させていただいた上で治療を行います。
いかがでしたでしたか?
ラバーダム防湿とはどのような処置なのか、なぜ日本の歯医者ではラバーダム使用率が低いのか、お分かりいただけましたでしょうか。
ぜひ皆様にも、少し違った視点から歯科医院というものを考えていただきたく、コラムを書きました。長文を読んでいただき、ありがとうございました。
こちらも併せてご覧ください。
三好歯科 自由が丘|お知らせ・ブログ・症例|根管治療について
三好歯科 自由が丘|診療メニュー|根管治療